CHAI JAPAN TOUR 2019 「PINKなPUNKがプンプンプン トゥアー!」2019.6.29 新木場STUDIO COAST
CHAIのメンバーはメンバーでありながら「CHAIがあってよかった」とインタビューで語っている。自ら育ててきた存在ではあるけれど、いいバンドとは得てしてスタンスやセンス、ちょっと大げさに言えば思想を持つものだ。それはバンドの存在感がスケールアップしている証しでもある。そしてオーディエンス(自分もそうだが)は「CHAIのライブ」というスペシャルだけど決して非日常じゃない場所を愛している。
CHAI Photo by 中磯ヨシオ
ニューアルバム『PUNK』リリース後、USとヨーロッパツアーを経てきたバンドは、海外でのタフなライブ現場の経験を学びに、各地でのニュートラルなのに熱いリアクションを栄養にして帰ってきた。凱旋ツアーの色合いの濃い今回は全国8カ所を巡り、この日の新木場STUDIO COASTでファイナルを迎えた。ステージで目を引くのはおなじみになったバンドネームの電飾、そしてこの日はフロアに突き出た花道だ。そこへ顔写真のお面をつけて、花道の最前で手を振る4人に送られるのは歓声と「カワイイ〜!」という嬌声。が、一転、演奏が始まるとぐっと重くタイトなユナ(Dr)のキック、ユウキ(Ba)のローに圧倒される。このギャップにもグッとくる。音数を絞り込んで、ビートやリフのセンスで聴かせるプロダクションは世界のポップ・ミュージックのトレンドとも共振するもので、「CHOOSE GO!」、「ファッショニスタ」など、そうした特徴を持つ曲をブロックを序盤に配置したことで、プレイ面での自信をうかがわせた。
CHAI Photo by 中磯ヨシオ
花道を存分に生かしたマナ(Vo/key)・カナ(Gt/Key)によるアルバム「PUNK」のプロモ(!?)からの、マナの英語とユウキの翻訳による「コンプレックスはアートなり」「NEOかわいい」での自己紹介を経て、イントロのユナのドラミングでドッと歓声が大きくなる「N.E.O.」。地上波出演時に演奏したことで知名度の高い曲だが、いい意味でCHAIのライブは予習しなきゃとか、どんなノリか知っとかなきゃという壁がない。楽しそうだな、好きだなと思えば来ればいい。だからシンパシーを感じそうな若い女の子を軸にしつつも、男子もお姉さんもなんならお父さん世代も好きなように身体を揺らして踊れる。
CHAI Photo by 中磯ヨシオ
フロント3人がシンセを駆使してのハードなダンストラックの攻めに転じるブロックも、CHAIの楽曲の多様性を明快に伝えていた。ユウキのシンセベースが放つ低音の迫力とタイトなユナのスネア、マナとカナのエレクトロな上物がソリッドな「クールクールビジョン」、彼女たちが大好きなJusticeにも通じるエレクトロニックなダンスチューン「GREAT JOB」など、クラブであるコーストのフロアを照らすライティングもマッチ。
CHAI Photo by 中磯ヨシオ
CHAI Photo by 中磯ヨシオ
ふとフジロックの夜のホワイトステージも似合うはず!と思った瞬間だった。1曲1曲の世界観をしっかり届けられる演奏と演出に唸ることしきりなのだが、続く「カーリーアドベンチャー」はグッとドリーミーに、また餃子トークのSEが流れて始まった「ほれちゃった」でのカナのクリーントーンのフレージングの冴え、ブラッシュアップされたコーラスワークなど、曲の心地よさを最善の方法で届けるライブバンドとしての成長は、4人の音楽人としての意思を見事に証明していた。
CHAI Photo by 中磯ヨシオ
CHAI Photo by 中磯ヨシオ
中盤、一旦メンバーがはけ、再登場した際には各々背中に「MY BODY」や「STAY HUNGRY」といったメッセージが記されたマント状の衣装をまとい、花道でダンス。こうした演出もバンドサウンドの演奏で圧倒できるパワーを蓄えたからこそ際立つ印象を持った。CHAIが楽しいと思うことをどんどん実現できる状況、しかし彼女たちはその時期や効果をしっかり見定めて、新たな演出を投入しているのではないだろうか。再びタフな演奏に戻り、ユナのサンプリング的なよれたビートを生音で表現するスキルに進化を感じた「ハイハイあかちゃん」を経て、ユナの「ブーブー、言ってみ!」の一声からなだれこんだ「ぎゃらんぶー」。今となってはギャグ要素強めな曲に聴こえるが、ライブでの一体感を作り出すマストなナンバーだ。
CHAI Photo by 中磯ヨシオ
ユナのまったりトークによるグッズ紹介は怒涛のドラミングとギャップがありすぎて今回も頬が緩みっぱなしになるが、ファンもとても温かい。漢字をデザインに使った今回のツアーグッズ、その文字自体の意味は中国語でジャッカルだそうで、「CHAIと全然関係ないけどかっこいいよね」と、4人が順番にTシャツやポーチ、クリアバッグを紹介。実際使いたくなるグッズが多いのも、女の子のファンにはポイントが高いと思われる。
ラストはCHAIの日常でありスタンスが詰まった「FAMILY MEMBER」が、自然と起こるクラップに乗せてここにいるオーディエンスにとっても“自分の曲”として広がっていく。トロピカルなテイストのあるマナのオブリガード、グルーヴィなユウキのフレージングなど、どこを取っても強くて洗練されている。そしてユナが次でラストであることを告げると、テンプレではなく真顔の「ええ〜っ」の大ブーイングが起こった。本気である。だが、ラストに『PUNK』リリース以降、締めの定番となった「フューチャー」のシンセのイントロが流れると、まさに来るべき未来について歌い、ミディアムテンポで大きなグルーヴを生み出す曲でオーディエンスをしなやかに揺らすーー決して簡単じゃない演奏をモノにしてきた自信、日本のライブシーンで珍しい曲調を浸透させてきた自負、そういったものが確かに結実したように見えた。マナの大きなステージでも自由に遊ぶようにアクションする奔放さや、各自のスキルアップが功を奏して、4人ならではのエンターテイメントを完成させたのだ。
C Photo by 中磯ヨシオ
本編が終了すると、そこらじゅうで「かっこいいー!」「サイコー!」という声が2階席でも聞こえてくる。私自身も幾度も一人つぶやいた。ざわめきと拍手の中、再登場した4人は何か小さな箱状のものをフロアにばら撒きながら、「中身は内緒」と受け取れた人に念を押す。そういえば今回のライブは開演前に「写真OK!動画OK!ダンスOK!騒ぐのOK!」と、スマホによる撮影の許可がアナウンスされていたのだが、踊ることと等価に「やっちゃってOK」というスタンスがCHAIらしい。認められると人は節度を持つものだなと、ほぼ踊っていたフロアを見渡して思った。お互いへのリスペクトが居心地の良さを生む。
今回より小規模なライブハウスではお客さんとのちょっとした会話やMCを挟んでいたマナはまとまったMCでしっかり気持ちを伝えていたのもショーの変化を感じた。曰く「アメリカ、ヨーロッパとツアーしてきたけど、最後は日本で終わりたかった。『PUNK』ってアルバムを出して回ったツアーだけど、パンクって壊すんじゃなくて、新しい自分を見つけていくっていうことなもんで、みんなも負けんじゃねえぞ!」と、ちょっと照れながらも力強く言い放った。そりゃ歓迎されていても海外のツアーは簡単なことじゃないのは想像に難くない。マナの簡潔で強いメッセージのリアリティに歓声が上がる。
CHAI Photo by 中磯ヨシオ
アンコールの2曲は80s風のポップさからメロウな「Because I’m me」に至る構成もメッセージも泣ける「アイム・ミー」、そして巨大ミラーボールが降りてきて、きらめく光をそこにいる人すべてに降り注がせる演出の中、柔らかな曲調だからこそ、より自分を愛してあげることの大切さに包まれる「sayonara complex」でフィニッシュ。4人のプレイヤビリティが向上したことで、曲の良さや、パワフルなだけでない切なさも見事に伝えきった4人。
「コンプレックスはアートなり」や「NEOかわいい」といったテーマに注目される時期を超えて、音楽そのもの、今のCHAIそのものが受容され、笑顔にあふれたツアー・ファイナル。見事だった。